家庭内暴力とハーグ児童返還条約上の重大な危険

と日本が約締約である「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)」に関して、韓国の裁判実務では、子を国外に移動することに相手配偶者からの同意があったのかとハーグ条約が定めた返還拒否事由は存在しないのかが争点になる場合が頻繁です。特に、ハーグ条約の返還拒否事由の一つでは「常居所地国に返還することによって,子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること」があります。これに関して、配偶者からの暴力(DV)を避けて子を連れて他国へ移動した場合、子の常居所地国へ返却が子への重大な危険と認めて、返還を拒否することが可能なのかの問題もあります。

実際に韓国の裁判所でこの問題が争点になったケースがあります。日本に住む韓国国籍の夫婦の一方が家庭暴力の理由で子供と一緒に韓国に無断で移動し、これに対して日本に住む配偶者は、韓国の法律事務所を代理人として選任して韓国の裁判所で児童返還請求訴訟を起こしたケースです。相手側の弁護士は、子の返還はすなわち家庭内暴力に子を再び露出させるものであり、返還拒否事由の重大な危険があると主張しました。

これに対して韓国の最高裁判所は、ハーグ条約の返還拒否事由の一つである重大な危険には、親の一方に対する頻繁な暴力によって子に精神的危害が生じる場合と常居所地国に返還される場合むしろ適切な保護や養育を受けられなくなる場合を含むと前提して、請求人が相手配偶者に数回暴行し、児童がこれを目撃して精神的な苦痛を受けた事実がある限り、請求人が 子を直接に暴行した事実がないとしても、日本への返還は重大な危険に当たると判断し、返還請求を棄却しました。

“ハーグ条約の「重大な危険」の返還例外事由は児童の迅速な返還によってむしろ児童の具体的で、個別的な福利が侵害される危害を防ぐためのもので、その解釈においては児童の権益が一方親の養育権や手続きの迅速性などより優先して考慮されなければならない。
したがって、重大な危険には、請求人の児童に対する直接的な暴力や虐待などで児童の心身に有害な影響を及ぼす恐れがある場合だけでなく、相手である一方の親に対する頻繁な暴力などによって児童に精神的危害が発生する場合と常居所地国に返還される場合むしろ適切な保護や養育を受けられなくなり、激しい苦痛を受ける場合を含む。
裁判所は、上記のような事情以外にもその危険の程度と繰り返される恐れがあるかどうか、児童の返還前後の養育に関する具体的な環境、返還が児童に及ぼす心理的・肉体的影響などその他一切の事情を総合的に検討する必要があり、請求人と相手の養育権などを考慮し児童に対する最善の利益が何なのかと返還がむしろ児童の福利に深刻な侵害となるかどうかを判断しなければならない。
上記の法理と原審が適法に採択した証拠をみると、請求人が相手を何度も暴言と暴行をして子はその暴行を目撃して精神的苦痛を経験しており、子が日本に戻る場合、そのような分離がむしろ子に対する心理的苦痛を与える恐れがあるという点などの事情を考慮して子が返還される場合、重大な危険があると判断して請求人の請求を棄却した原審の判断は正当であり、そこに重大な危険などに関する法理を誤解したり論理と経験の法則を違反して裁判に影響を及ぼした過ちがない”(大法院2018.4.17.2017ス630決定)

しかし、この判決に対しては、ハーグ条約の枠組みを逸脱するものだという批判があります。ハーグ条約に基づく返還請求裁判は、養育権に対する判断、すなわち、両親中の誰が養育権者として適任だと認められのかを判断するのではありません。違法に移動された子を常居所地の国家に迅速に返還させることが目的です。子の養育権についての問題は、子の常居所地国の裁判所が審理・判断することになります。もし、所在地国の裁判所が子供の福利という実質的観点で子の養育権問題まで審査することになると所在地国の自国中心主義が影響を及ぼす恐れがあり,子の福利に関する判断は子の生活と最も密接な国家である常居所地国の裁判所が担当するのが望ましいという協約の土台や締約国間の信頼にも反するという批判があるのです。米国の第九巡回控訴裁判所は、ハーグ児童返還請求事件を審理する裁判所の任務は児童が最も幸せに暮らせる国がどこなのかを決定するものではないと判決したことがあり、これも同じ趣旨です。もちろん、決してこれが家庭内暴力を許すということを意味ではありません。それは、あくまでも家庭内暴力を含む国際的な子の養育権の問題は、ハーグ条約という国際のルールに従って常居所地国の裁判所が判断するのが児童の権益を保護することだということです。

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