韓国の有名人との広告出演契約やスポンサー契約締結における留意点:品位維持条項

韓国に進出したり韓国内で製品やサービスをご提供する日本企業としては、高い大衆認知度を誇る韓国のインフルエンサー(タレント、K-POPアーティス、俳優、YouTuberなど)を広告に起用する場合があります。ところが、麻薬服用、音楽の盗作、動画の流出など有名人のスキャンダルによって、彼らを広告モデルとして起用した広告主が困惑するケースが、韓国にもよく見られます。

そこで、企業と有名人との広告出演契約やスポンサー契約(Endorsement Agreement)にはいわゆる「品位維持条項(Morals Clause)」を設けることが韓国でもよく見られます。

品位維持条項とは?

品位維持条項とは、広告に出演するモデルに対して、当該企業(広告主)や商品(サービス)のイメージに害を及ぼすことをしてはならない義務を負わせる条項です。

よく使われる品位維持条項の実例

具体的な契約書文言は、ケースによって異なりますが、大まかに”広告モデルは、契約期間中に自分の責に帰すべき事由によって社会的・道徳的名誉を傷つけることで広告主の製品、サービス及び企業イメージを毀損してはならない“という文言が多く使われるようです。

広告モデルが品位維持義務に違反すると、広告主は契約を解除することができ、広告モデルに所定の違約金を請求できるものと規定される場合が多いです。

広告主が芸能人などに巨額の出演料を支払う理由は、芸能人などの肯定的なイメージを自分の商品ないしサービスと連携させて消費者からの好感度や購買欲求を呼び起こすことにあるというのを考えると、そのような条項の必要性と妥当性は十分に納得されます。

アメリカから始まった品位維持条項

品位維持条項は、アメリカから始め、最も活発に利用されてると言われてます。例えば、競泳選手のマイケル·フェルプス(Michael Phelps)がマリファナを吸引した事件でケロッグ(Kellogg)との協賛契約が解除された事例、歌手のクリス·ブラウン(Chris Brown)がガールフレンド(歌手のRihanna)を殴った疑いでガム広告が中断された事例などがあります。

韓国における事例

2009年、最高裁からのリーディング・ケース(有名女優の離婚騒ぎ)

韓国では2009年、建設会社と有名女優との間の広告出演契約における品位維持条項が最高裁判所からの判断を受けたのが最初のケースです。女優の離婚過程で起こった配偶者間の暴行問題などがマスコミに連日そのまま報道され、建設会社はこれが広告モデルの品位維持義務違反だと主張したのです。

最高裁判所は、建設会社の主張を受け入れ、女優に損害賠償を命じました。

この事件において最高裁判所は広告出演及びスポンサー契約に含まれた品位維持条項の有効性を認め、その具体的な意味について以下のように言いました。

“広告主がモデルや有名芸能人、スポーツ選手等との間で広告モデル契約を締結しながら出演する有名芸能人等に一定水準の名誉を維持する義務を課す品位維持約定をした場合、上記のような広告モデル契約は有名芸能人等を広告に出演させることで有名芸能人等が一般人に対して持つ信頼性、価値、名声など肯定的なイメージを利用し、広告される製品に対する一般人の購買欲求を呼び起こすための目的で締結されるものであるため、広告に出演することとしたモデルは、上記のように一定水準の名誉を維持することにした品位維持約定に基づき、契約期間中に広告に適した肯定的なイメージを維持して、そこから発生する購買誘引効果など経済的価値を維持すべき契約上の義務、いわゆる品位維持義務がありこれを履行しない場合には、広告モデル契約に関する債務不履行による損害賠償債務を免れない“(韓国最高裁判所2009.5.28.判決2006ダ32354判決)

韓国の裁判所は、品位維持約定を幅広く解釈している

加えて、韓国最高裁判所は、”モデル自身の責任のない事由によってそのイメージが損傷され得る事情が発生した場合でも、適切な対応を通じてそのイメージの損傷を最大限減らさなければならない契約上の義務を負う”と判示しました。

つまり、モデルが遵守すべき義務の水準を、積極的に自分のイメージを維持すべき義務はもちろん、他人の責によってイメージの損傷が懸念される場合、これを最小化するよう対処すべき義務まで含むものと判示したのです。

これは、品位維持義務の範囲をかなり広く認めたものであり、広告主の立場からかなり鼓舞的な判決と評価されます。品位維持条項の義務違反が問題になる事案を見ると、広告モデル側が、”私が犯したことではないのではないか”, “私こそ被害者だ”という抗弁をすることがよくありますが、広告モデルに責任のない事由で発生したスキャンダルにおいても、「広告モデルがイメージ損傷を最小化するための適切な対応ができなかったら」、広告主に対する損害賠償責任を負担する可能性が、韓国ではとても高いです。

女性アイドルグループのKARAのケース(専属契約紛争の騒ぎ)

2012年には、日本で韓流熱風を先導した女性アイドルグループKARA(カラ)のケースもありました。

KARAとKARAが属する芸能プロダクションの間で専属契約紛争が発生し、双方から主張事実を盛り込んだ報道資料が連日配布され、KARAグループ自体に対する否定的なイメージが蓄積され始めました。結果的に両者は数カ月後に合意し、争いは一段落しましたが、問題は、KARAを広告に起用した韓国のアパレル企業との契約関係でした。衣類企業は、品位維持義務違反を理由に訴訟を起こしたのです。

KARAの広告出演契約の品位維持条項

当時、KARAと韓国のアパレル企業が締結した広告出演契約の品位維持条項は次のような内容でした。

“KARAは契約期間中、法令[麻薬、姦通、詐欺、暴力などの罪で刑事上懲役刑(執行猶予含む)に該当する刑罰を受ける場合をいう]に違反したり、社会的物議を醸し出して広告主の製品及び企業イメージに損傷を与える行為ができない”

企業イメージの損傷に至らなかった場合でも品位維持義務違反を認め

結果として、ソウル高等裁判所は、KARAの品位維持義務違反を認め、5千万ウォンの損害賠償を命じました。

特異な点は、ソウル高等裁判所は、KARAの専属契約紛争が「社会的物議」に該当したり「広告主のイメージに損傷を与えた行為」には該当してないが、「広告契約期間中、モデル自身の肯定的なイメージを維持する義務」という品位維持義務の基礎的な内容を違反したと判断したことです。

このような複雑な判断が下された理由は、具体的にどのような類型の行為が社会的物議を醸し、原告の製品や企業イメージに損傷を与える行為”に該当するのかについて、契約書の具体化されてないし、契約締結の過程でも議論した資料が全くなかったためです。そういった事情から、韓国の裁判所は、”企業のイメージダウンには至らなかったが、広告モデル自分の肯定的なイメージが失墜した”との理由で損害賠償責任があると判断したのです。

この部分は、品位維持義務条項を幅広く解釈し、広告主を保護したという点で意味があります。(ただし、企業イメージの損傷まで認められたら、損害賠償額がさらに増えることができたでしょう)

他に品位維持義務違反が認めれたケース

この他にも、賭博罪を犯した有名お笑い芸人が広告主に7億ウォンの損害賠償をさせられた事件、睡眠麻酔剤を不法投薬した女優に1億ウォンの損害賠償判決が下された事件、ダイエット商品モデルとして出演した男性歌手が体重減量成功後3ヶ月で体重が増えたことにのよって広告出演契約違反が認められた事例などがあります。

韓国の有名人との品位維持条項の作成及び交渉時の留意事項

このように、広告モデルの品位維持条項が韓国の裁判所によってその効力が認められ、実際にも様々な紛争が発生しているところ、実際に広告モデルが品位維持条項に違反したのかどうかは、具体的な事実関係と当該契約書の文言解釈を通じて判断されるしかないでしょう。そこで、品位維持条項を交渉および作成する際に留意すべき事項について説明します。

どんな行為や事態が品位維持違反に当たるのかの定義の問題

まずどのような行動や事態が”品位維持違反”に該当するかを決める問題があります。

当然のことですが、広告モデル側ではできるだけ「品位維持の範囲」を狭く定義するのを望むはずですし、逆に広告主はそれとは反対の立場に立つことになるでしょう。これは両者の交渉力の関係に相当左右されることです。

ただし、広告主にとっては禁止される行動の範囲と意味をできるだけ具体的に並べることが望まれます。 単に「社会的物議」、「広告主のイメージを害するおそれがある一切の行為」といった抽象的な記載は、一見すると、広告主に有利な、非常に強力な条項であるように見えるものの、後日紛争が発生した場合、いったいどれが広告主のイメージを害するおそれがある行為というかが不明で、裁判所に判断余地(解釈の裁量)を与えてしまう不完全性があるからです。特に個人(有名人)の私生活の自由や職業選択の自由に対して非常に寛大な立場を取る裁判部には、そのような抽象的な条項がむしろ有名人を兔責させる口実として作用する余地もあります。

実際、前述のKARA事件において、ソウル高裁は、契約書に「社会的物議で企業のイメージを損ねた場合」がどのような場合を指しているのか、具体的に記載されていない点を指摘しています。

したがって、できるだけそのような第三者(裁判所)の判断余地がないように品位維持義務違反となる行為を具体的に羅列し、そのような条項について相手方(広告モデル)と十分な検討と交渉を経たことを書類として残しておくことが望ましいでしょう。

品位維持義務を違反した場合のペナルティ

次に、有名人の行為が品位維持違反に該当する場合、どのような内容(水準)のペナルティが科せられるように定めるのかの問題があります。ここには契約解除、契約金没収、損害賠償、違約罰請求、謝罪声明発表など、様々なオプションがあります。どの範囲まで含めるのかは、やはり契約当事者間の交渉力の劣位に相当影響されることになるでしょう。

契約書上、過度に多額の損害賠償金を予め定めておくことは、後に裁判所によってその効力が一部否認されることもありますのでご注意が必要です。KARA事件でも当事者たちは損害賠償額を4億ウォンに予定して決めましたが、裁判所はこれを5千万ウォンに減額しました。(契約書に記載された損害賠償額の予定額を韓国の裁判所が減額できるという点についてはこちらを参照してください)

最後に

以上、韓国での広告モデルの品位維持条項と関連する法律問題を見てきました。 広告モデルが各種事故やスキャンダルになった場合、広告主の立場で品位維持条項の違反を主張すべきか、主張する場合、どのような方法と水位で主張すべきかは、法的な問題ではなくビジネス的な判断も要する敏感な問題であります。特に、広告モデルの品位維持義務違反を挙げ、巨額の損害賠償を請求し、そのような事実をマスコミ報道を通じて公表することは、ややもすると事件の本質を名誉と企業イメージではなくお金の問題として格下げし、広告主にも良くないイメージを与える恐れもあります。(もちろん、それだけブランドイメージの価値が大きいという点を逆説的に広告する側面もありえます)

結局、日本企業の実務者としては、広告出演契約の交渉、契約書の作成及び検討の段階だけでなく、以後広告モデルとの紛争が発生した場合にも、韓国弁護士との緊密な協議を通じて最も効率的な方案を探すことが必要だと思われます。

上記の内容や韓国法務に関するより詳細な情報を願う方は、こちらのメールまたは上段の「法律相談」コーナーでご連絡ください。

本メモランダムは、一般的な情報提供のみを目的としたサマリーであり、本件に関する完全な分析ではなく、またリーガル・アドバイスとして依拠されるべきものではありません

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