従来、資産承継対策(資産承継プランニング)といえば、遺言状作成が一般的でした。しかし、遺言は、法律上の様々な制限によって被相続人の意向を十分かつ柔軟に沿ったものにすることができません。また、遺言は、死亡によってその効力が生じるため、生前に認知症などの疾患から被相続人の財産を保護できない限界もあります。ここで、遺言の代用ないし補完策として広く活用されてるのが、家族信託と成年後見です。
問題は、本人が韓国に預金や不動産を保有している場合、日本で行われた成年後見人の選任と家族信託が、韓国でも効力があるかということです。
成年後見人の選任の場合
まず、成年後見人の選任に関しては、韓国法は、これを外国裁判の承認の問題として扱っています。韓国法によると一定の要件を満たした外国の裁判は韓国内での効力が認められています。日本の裁判所の成年後見人審判も「外国の裁判」の一種であるため、一定の要件を満たせば国内的効力を認めるということです。(ここでいう「一定の要件」とは、裁判内容の妥当性はなく、主として形式的要件(管轄、送達、公序良俗、相互保証)を言います)
これをよく示す下級審判決として、ソウル高等裁判所が、日本に居住する韓国人に対して、日本の裁判所が日本法によって行った成年後見選任の審判は、韓国法が定めた承認要件をすべて満たしているため、韓国でも有効であると判断した事例があります。(この事件では、日本の成年後見人が韓国での訴訟のために行った訴訟委任行為が韓国で有効なのかが問題となったケースです)
ただし、上記の下級審判決は、居住地国の裁判所(日本の裁判所)による後見は、本国の裁判所(韓国の裁判所)による後見について補充的に認められるものであるため、以降、韓国の裁判所によって後見が設定されれば終了すると判断しました。
結局、上記の韓国裁判所の立場は、①日本の裁判所の後見人選任は、韓国で承認されるのができることであり、②(承認条件を満たす場合)日本の後見人の権限は、韓国内の財産及び後見事務にも及び、③被後見人が韓国人である場合は、日本の裁判所の後見人選任裁判が承認されても、以降、韓国の裁判所が成年後見審判を行うことができ、④この場合、韓国内では日本の後見人の効力が消滅すると要約することができます。(ただし、③と④の結論については疑問を持っている見方もあります)
ただし、実際には銀行や取引相手方などがこのような内容を知らない場合も少なくなく、韓国弁護士の意見書を提出したり、場合によっては韓国の裁判所で成年後見選任を再申請するという方法をとることもあります。
家族信託の場合
次に家族信託に関しては、日本の家族信託と類似した制度として、韓国には遺言代用信託というものがあります。信託が、韓国に所在する不動産を対象とする場合、これはの不動産の物権に関する事項でありますので、不動産の所在地国である韓国の法律も遵守しなければなりません。
すなわち、韓国における資産を対象とする日本の家族信託は、その設定のための契約(合意)は、日本において日本法に基づいてすることも想定できますが、これは結局、韓国への遺言代用信託を通じて実現するしかなく、したがって遺言代用信託の設定のために韓国の信託法が要求する要件と手続きを満たさなければ効力はありません。
加えて、韓国における信託登記による効力や効果も、韓国の信託法が許容する範囲内でのみ認められるので、日本で家族信託を設計する段階では、韓国の遺言代用信託の内容と効力を事前に検討し、当事者の意図する目的が達成可能かどうかを確認すべきであります。
おわりに
海外資産を保有する日本人や在日韓国人は、年々増加しています。この場合の成年後見及び家族信託は、日本国法はもとより、財産の所在する国の法律及び実務への検討を行わなければ、本人の意向及び目的を達することができなくなる事態を生ずるリスクがあります。資産承継対策を準備するにあたり、国際的な業務処理の経験が豊富な弁護士のアドバイスを得なければならない理由はそこにあります。
関連資料①:日本裁判所による判決の韓国における効力および執行手続について
関連資料②:韓国にある財産において日本法の方式で作成された遺言状の韓国内の効力
関連資料③:韓国弁護士が解説:日韓相続に適用される韓国相続法の基礎と実務ガイド
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