日本と同様に、韓国の労働基準法も労働者の権利を保護し、公正な労働条件を確保することを目的としています。両国では企業が就業規則を作成し、それを労働者に周知させることが法的に義務付けられています。しかし、韓国の労働基準法には日本とは異なる独自の規定があり、特に外国企業にとっては慎重な対応が求められます。
本稿ではです、韓国労働基準法に基づく就業規則の整備に関する基礎知識を提供し、日本企業が韓国でのビジネス展開において直面する可能性のある課題を説明します。
<目 次>
就業規則とは
就業規則とは、事業主が労働者の服務規律と賃金など、当該事業の労働者に共通して適用される労働条件に関する準則を定めたものを指します。
就業規則は「就業規則」「社内規定」などの名称で統合して管理することもできますし、給与規定、退職金規定、人事管理規定、懲戒規定などに区分して作成することもできます。
作成・届出義務
韓国の勤労基準法(日本の労働基準法に相当)に基づき、常時10人以上の労働者を使用している使用者は、必ず就業規則を作成し、地方雇用労働官庁に届け出る義務があります。(労働基準法第93条、施行令第59条)
常時10人以上の労働者がいる場合にのみ就業規則作成・届出義務があるのは、日本と同じです。
「常時労働者数」は、就業規則の作成または届出義務の発生有無を判断する時点を基準とし、その前の1ヶ月間に使用された労働者の人数を稼働日数で割って判断します。(施行令第7条の2)
韓国支社の常時労働者数が10人未満であるが、日本本社の常時労働者数は、10人以上である場合はどうでしょうか?
常時10人以上の労働者に該当するか否かは、本店と支店が事実上一つの事業所として評価できれば、本店と支店の労働者数を合算して判断することになります。外国にある会社とその韓国内支社または支店の間でも同様です。
したがって、韓国オフィスの法人格、事業内容および人事管理構造などに照らして、日本の本社と韓国オフィスを一つの事業所と見なされる場合は、本社と韓国オフィスの労働者を合算します。つまり、韓国オフィスの常時労働者数が10人未満であっても、就業規則の作成・届出義務が生じる場合がある点に留意する必要があります。
複数の就業規則も可能
就業規則は、必ずしも一つだけ作成される必要はありません。事業場内の労働者が、勤務形態や職種を異にする複数の集団(例えば、事務職と生産職、一般職と日雇い職など)に分かれる場合には、各集団の労働者を適用対象とする別個または複数の就業規則を定めることも可能です。
常時労働者10人未満の事業場の場合
常時10人未満の労働者を使用する使用者は、就業規則の作成・届出義務はありませんが、作成して届け出ることも可能です。一度就業規則が作成されると、法律で定められた就業規則に関するすべての規定が適用されることになります。
記載事項
韓国の勤労基準法も、日本の労働基準法と同様に、就業規則に必ず含まれなければならない絶対的記載事項と、使用者が任意で記載できる任意的記載事項を規定しています。
韓国労働基準法が定める絶対的記載事項は、以下の12項目です。
- 業務の開始および終了時刻、休憩時間、休日、休暇および交代勤務に関する事項
- 賃金の決定・計算・支払方法、賃金の算定期間・支払時期および昇給に関する事項
- 家族手当の計算・支払方法に関する事項
- 退職に関する事項
- 退職金、賞与および最低賃金に関する事項
- 労働者の食費、作業用品などの負担に関する事項
- 労働者のための教育施設に関する事項
- 出産前後休暇・育児休業など、労働者の母性保護および仕事と家庭の両立支援に関する事項
- 安全と衛生に関する事項、労働者の性別・年齢または身体的条件などの特性に応じた事業場環境の改善に関する事項
- 業務上および業務外の災害扶助に関する事項
- 職場内のいじめの防止および発生時の措置などに関する事項
- 表彰と制裁に関する事項
日本企業の法務担当者は、就業規則を作成するにあたり、上記各事項に対する韓国労働基準法の内容を確認した上、自分の企業の事情や労務方針に合わせた就業規則を作成する必要があります。
特に日本企業の場合、すでに労働基準法に基づき日本の就業規則を完備している場合が多いため、その日本の就業規則の内容を基本とし、それを韓国勤労基準法の内容に合わせて修正する方式で就業規則を作成するのが一般的です。
就業規則の作成・変更の手続き:労働者の意見聴取、同意の問題
就業規則の作成・変更の手続きとして、使用者は、労働者の過半数で組織された労働組合がある場合にはその労働組合の、労働組合がない場合には労働者の過半数の意見を聞かなければなりません。実務上は、就業規則の届出の際、意見聴取確認書の提出が求めら得ています。(勤労基準法第94条第1項)
一方、就業規則の変更により既存の労働条件の内容を労働者に不利益に変更する場合には、労働組合または労働者の過半数の同意を得なければなりません。これは、労働条件の労使対等決定の原則と労働者の権益保障、既得権保護の原則に基づくものです。(労働基準法第94条第1項但書)
ここでいう「労働者の過半数」とは、既存の労働条件または就業規則の適用を受けていた労働者集団の過半数を指します。
ただし、不利益変更の時点では特定の労働者集団のみが不利益を受けても、他の労働者集団も将来においては変更された就業規則を適用される予想がある場合は、その他の労働者集団からも同意を得なければならないです。
例えば、韓国の大法院(日本の最高裁に相当)は、就業規則の定年規定を、一般職社員(4級以下)は、55歳から58歳に、管理職社員(3級以上)は、60歳から58歳に、変更することが問題になった事案において、一般職社員も将来管理職社員に昇進する可能性があるため、管理職社員の定年を短縮する就業規則の変更には、管理職社員だけでなく一般職社員を含む全社員からの過半数同意が必要だと判断しました。
一方、使用者が、就業規則を労働者に不利益に変更しながら労働者の集団的同意を得られなかったものの、変更された内容に社会通念上の合理性がある場合、これを有効とみなすことができるかという問題もあります。
従来、韓国の大法院は、就業規則の不利益な変更に社会通念上の合理性が認められれば労働者の集団的同意がなくても有効であるとし、それを肯定しました。しかし、大法院は、2023年に判例を変更し、労働者が集団的同意権を濫用したとみなされる特別な事情がない限り、社会通念上の合理性があるという理由だけで変更された就業規則の有効性を認めることはできないと判決しました。これによって就業規則の不利益な変更の際、労働者の同意を得る手続きがより重要になったといえます。
就業規則に関する注意点
就業規則は、単に行政官庁に届け出るための書類ではなく、企業の労働関係に適用される法規法としての効力が持たせられる重要な法律文書です。したがって、韓国の労働基準法が定めた法的義務事項を遵守するだけでは不十分であり、企業固有の人事管理や労務方針、経営方式に合わせた就業規則を整備するのが求められます。
企業内に勤務形態や職種を異にする複数の集団の労働者がいる場合には、就業規則の適用対象を明確にすることが極めて重要です。状況に応じては別個の就業規則を作成することが、将来発生しうる紛争の素地をなくす方法です。
前述のように、就業規則は、文書の名称を問わないため、給与規定、人事管理規定、懲戒規定など労働者全員に適用される労働条件に関する会社内部の規定がある場合には、これも就業規則として届け出なければならないのはもちろん、その内部規定の内容が就業規則の内容と矛盾しないよう注意を払う必要があります。企業が通常的に使用している勤労契約書や採用契約書も同じです。
就業規則の作成および届出を終えた場合でも、韓国労働関連法の改正に合わせてこれを更新することも必要です。
まとめ
韓国で事業を展開する日本企業にとって、韓国の労働基準法に基づく就業規則の作成は重要なステップの一つです。適切な就業規則を整備することで、企業は労働条件の透明性を高め、従業員との信頼関係を築くことができます。韓国の法律や文化を尊重しつつ、効果的な労務管理を行うことで、事業の成功に繋げることができます。
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