株主間契約は、複数の当事者が共同のビジネスや合弁事業を進める際に、株主の権利と義務を明確にするための重要なツールです。この契約は、ジョイントベンチャーやM&Aの取引でよく使用されるだけでなく、近年では、財務的投資家とスタートアップとの間の投資契約にも頻繁に見られます。
音楽業界においても、資本力と流通力を持つ大手レーベルや芸能事務所が、創造力に優れたアーティスト、プロデューサー、または小規模レーベルと共同で出資し、新たに法人(レーベル)を設立してアルバム制作やアーティストの発掘を行う際に、株主間契約が活用されることがあります。
最近発生したK-Popガールズグループ「New Jeans」の所属レーベルADOR(アドア)をめぐった経営権紛争は、株主間契約の法的拘束力が全面に浮上した事例です。ソウル中央地方裁判所は、株主間契約書に明記された取締役指名権および議決権拘束条項の効力を認め、それに基づき議決権行使禁止の仮処分決定を下しました。
この判決は、株主間契約および議決権拘束合意が経営権紛争においてどのように機能するかを示す重要なケースであり、エンターテインメント業界に限らず、韓国企業とジョイントベンチャーなどを展開する日本企業にとっても大いに参考になる事例ですので、ここで紹介いたします。
紛争の概要
ADORの設立および株主間契約の内容
ADOR(以下「A」)は、韓国の大手エンターテインメント会社である上場企業HYBE(以下「Y」)が設立した音楽レーベルで、設立当初、Yが株式100%を保有していました。有名音楽プロデューサーであるXは、Yと業務提携契約を締結し、Aの取締役兼代表取締役に就任しました。Xは、A所属のK-Popガールズグループ「New Jeans」(以下「NJ」)を企画し、成功的にデビューさせ、Aの成長を牽引しました。
XとY間の業務提携契約には、Xの株式買収オプションが規定されていて、2023年3月にXは、YからAの株式17.8%を買収し、Yと株主間契約を締結しました。
株主間契約には、「Xが定款や法令に違反する行為をするなど商法に定める取締役解任事由に該当する行為を行わない限り、Yは、5年間、XがAの代表取締役および取締役の地位を維持できるよう、Aの株主総会で議決権を行使しなければならない」という条項が盛り込まれていました。
紛争の発生
NJの成功的なデビュー後、Xは、株主間契約の競業禁止条項やプットオプションの行使価格に関して問題を提起し、Yに対して株主間契約の修正を求め始めました。この過程で、XとYの間には、Yがプロデュースした新しいガールズグループとNJとの類似性の問題や、Xの善管注意義務違反の有無をめぐって対立が深まりました。
Yは、2024年5月31日に予定されていたAの株主総会で、Xの取締役解任を決議しようとしました。Xが取締役を解任されると、韓国商法に基づき、代表取締役の地位も自動的に失うことになります。
これに対し、Xは、ソウル中央地方裁判所に、Yの議決権行使の禁止を求める仮処分申請を行いました。
Xの主張
Xは、XとYの間の株主間契約に基づき、Yは5年間、Xの取締役職が維持されるように議決権を行使する義務があるため、Yは予定されているAの株主総会で、Xの解任議案に賛成する方向で議決権を行使してはならず、もし賛成する場合には、間接強制金として、Xに300億ウォンを支払うべきだという仮処分決定を求めました。
Yの主張
これに対しYは、(i) 株主間契約書にある「YはXの代表取締役および取締役の職が維持されるように議決権を行使しなければならない」という条項は、Xの任期(3年)が満了した際に、再任に賛成するという意味であり、株主総会による取締役解任権を制限するものではないと解釈すべきであること、(ii) 仮にこの条項が解任を制限するものだとしても、株主間契約書には「Aが定款や法令に違反する行為をするなど商法上の取締役解任理由に該当する場合」には議決権拘束の例外が規定されており、XはAの取締役でありながら、Aの主要資産であるガールズグループNJを私物化しようとするなど、取締役としての善管注意義務および忠実義務に違反し、Aに重大な損害を与えたため、Yは議決権拘束を受けず、解任決議に賛成できると主張しました。
裁判所の判決
2024年5月30日、ソウル中央地方裁判所は、Xの主張を認め、Yに対し、5月31日に開催予定のAの株主総会において、Xの取締役解任に賛成する内容で議決権を行使してはならないという仮処分決定を下しました。
裁判所は、株主間契約書の議決権拘束条項は「YはXが5年間、社内取締役の地位を維持できるよう株主総会で議決権を行使しなければならない」と規定し、Yが保有する株式に関する株主総会での議決権行使について、また、その議決権行使義務の例外として「Xが定款や法令に違反する行為をするなど商法に基づく取締役解任事由に該当する場合」が規定されていること、さらに株主間契約上、Xは5年間Aに在籍する義務があり、その期間中Xが代表取締役の地位を保障される趣旨であると解釈できることを踏まえ、裁判所は、解任事由がない限り、Aの株主総会でXを取締役から解任することを禁じる議決権拘束契約と解釈するのが合理的であると判断しました。
さらに、こうした議決権拘束契約は、他の株主の権利を害したり、不当であるとは認められないため、XとYの間では有効であり、その義務の内容も具体的かつ明確であるため、XはYに対してこの義務の強制履行を求めることができると判断しました。
Yが主張した「Xが商法で定められた善管注意義務に違反したため、取締役解任事由に該当し、議決権拘束を受けない」という点については、その立証責任はYにあり、Yはそれを十分に立証できなかったとして退けられました。
結論として、裁判所は、Yに対し、株主間契約に基づく議決権拘束条項に従い、Aの株主総会でXの取締役解任案に賛成する内容で議決権を行使しないよう命じました。また、間接強制の手段として、Yがこれに違反した場合、Xに対して200億ウォンを支払うよう命じました。
韓国における株主間契約と議決権拘束契約に関する議論
株主間契約の意義
株主間契約とは、会社の運営に関連する株主間の権利義務関係を規律する契約を指します。
株式会社の支配と経営は、株主総会および取締役会を通じて行われ、基本的には商法で定められた多数決の原則が適用されます。そのため、株主間契約は、少数株主であるビジネスパートナーの経営関与を確保し、また大株主を抑制する手段として非常に重要な役割を果たします。
株主間契約書の構造や内容は、契約当事者である株主の数、各株主の投資目的、会社の持株構造によって異なりますが、一般的には以下の項目で構成されます。
- 会社の持分構造に関する事項
- 株式譲渡制限に関する事項
- 取締役などの機関構成に関する事項
- 株主総会および取締役会での議決権行使に関する事項
- 会社の主要な経営事項に関する報告および監督に関する事項
- 競業禁止、資金調達、配当方針に関する事項
- 契約の期間、解除および解除の効果に関する事項
この中で、各当事者が保有する株式に基づく議決権行使の内容や方法を事前に定めておくことを「議決権拘束契約」と言います。
議決権拘束契約の有効性
韓国における株主間契約の効力に関する一般的な見解は、契約当事者である株主間の債権的効力のみが認められ、会社に対する効力は認められないことです。これは議決権拘束契約の場合も同様です。
議決権拘束契約の効力を直接扱った最高裁判決はまだ存在しませんが、多くの下級審判決では、「議決権拘束契約は、その合意内容が他の株主の権利を害したり、不公正でない限り、少なくとも当事者間では有効である」という立場を取っています。
2018年5月29日の水原地方裁判所安養支部(2018カ合10007決定)では、日本企業と韓国企業の間の難病治療薬の共同開発および製造を目的に締結された戦略的提携契約(株主間契約)において、「韓国会社の取締役は合計4名とし、韓国企業と日本企業がそれぞれ2名ずつ指名し、代表取締役は日本企業の代表取締役と韓国企業が指名した1名が共同で務める」と規定されていた議決権拘束契約に対し、その効力を認め、強制執行も可能であると判断されました。
議決権拘束契約の履行確保
議決権拘束契約を違反しようとする株主がいる場合、他の株主は議決権拘束契約の債権的効力に基づき、仮処分を申請して、相手方の議決権行使を強制または禁止することができるのでしょうか?
韓国学説には対立がありますが、現状の裁判実務では、これを概ね肯定しています。
ただし、これに関する裁判所の仮処分決定は、債務者である反対側株主の意思表示(議決権行使)を替える法的効果までは認めず、「取締役選任に賛成する形で議決権を行使しなさい」または「取締役解任に賛成する形で議決権を行使してはならない」といった作為・不作為義務を課すにとどまります。
したがって、例えば「取締役選任に賛成する形で議決権を行使しなさい」という仮処分決定が下されても、債務者である反対株主が、株主総会に出席しない場合、取締役選任の目的は達成できないという限界があります。
さらに、株主総会で仮処分決定に反する決議が成立したとしても、その決議の内容が株主間の議決権拘束契約に違反しているという事実だけでは、決議取消事由にはならないというのが判例の確立した見解です。
この場合、被害を受けた株主は反対株主に対して契約違反による損害賠償責任を追及することはできますが、被害額の立証は容易ではありません。
そのため、実務においては、議決権拘束条項に、一方の株主がこれを違反した場合に備えて違約金を定め、仮処分申請の際にも、仮処分命令の実効性を確保するために、債務者が仮処分命令に従わない場合には債権者に一定額を支払うように間接強制の申請が行われており、裁判所もこれを認めています。
本件の場合
本件において、ソウル中央地方裁判所は、従来の裁判実務に基づき、株主間契約書に定められた議決権拘束合意の有効性を認め、反対株主であるYに対して、株主総会でXの解任に賛成する内容で議決権を行使してはならないと命じました。さらに、Yが仮処分命令に反して議決権を行使した場合には、Xに対して200億ウォンを支払うようにとの間接強制命令も下しました。
本判決の示唆点: 実務上の留意事項
今回の判決は、株主間契約書に含まれる議決権拘束条項が経営権紛争においてどのように機能するかを示す重要な事例であり、実務上いくつかの留意点を示唆しています。
議決権拘束条項は、会社の運営に関連する特定の状況において株主が議決権をどのように行使するかを明確に規定することで、経営参加権を保護し、紛争を最小限に抑えるというメリットがあります。本事件でも、裁判所は少数株主側の取締役であるXの解任決議に対し、大株主Yの議決権行使を禁止しており、この条項の重要性を示しています。
したがって、議決権拘束条項は、その対象(今回のケースでは取締役の選任および解任)および行使条件と方法を明確に規定する必要があります。本件では、「Xが定款や法令に違反する行為を行った場合に限り、Yが解任決議に賛成できる」と定められており、少数株主であるXには有利ですが、80%の持株を持つYには不利な条項でした。(ちなみに、韓国の商法では、取締役はいつでも株主総会の決議で解任することができます。ただ、正当な理由なしに任期満了前に解任された場合、会社は取締役に対して損害賠償責任を負うことになります)大株主Yの立場では、「定款や法令に違反する行為を計画している、またはその恐れがあると合理的に認められる場合」と規定していたほうが有利であり、もしそう規定されたとしたら、今回のXの議決権行使禁止仮処分申請は棄却された可能性が高いとみられます。裁判所も、株主間契約の内容に不満を持ったXが、ガールズグループNJをAとの専属契約から離脱させ、独立した自分の支配下に置こうと試みていた事実を認めたからです。
また、少数株主の立場では、議決権拘束契約に違反した場合に備え、違約金条項を設けることが望ましいでしょう。将来紛争が発生した場合、裁判所が違約金の額を減額する可能性はありますが、これは当事者が合意の拘束力を認定していたことの重要な証拠となり、仮処分段階でも、当事者間で合意された金額として一応間接強制金の基準として使われる可能性があります。
一方で、上述のように、議決権拘束契約は一般的にその効力が認められるものの、株主権は当事者間の合意によって放棄することができないというのが判例の立場です。したがって、議決権拘束契約が事実上、株主権の核心である議決権を全面的に放棄するものと同等である場合は、その効力が認められないリスクがあります。したがって、議決権拘束の対象を具体的に定め、拘束契約の期間も合理的な範囲に制限することが望ましいです。
まとめ
今回のADOR_New Jeans事件は、株主間契約がジョイントベンチャーや共同事業を巡る経営権紛争においてどのように機能するかを明確に示す事例です。韓国企業との株主間契約を締結する、またはジョイントベンチャーに参加する日本企業としては、株主間契約と議決権拘束条項の効力と法的リスクを十分に理解し、その契約条項を慎重に設計することが重要です。
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本コラムは、一般的な情報提供のみを目的としたサマリーであり、本件に関する完全な分析ではなく、またリーガル・アドバイスとして依拠されるべきものではありません。
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