【最新韓国判例】韓国の最高裁、外国裁判所の懲罰的損害賠償判決の承認を制限的に許容

裁判というのは、そもそも国家主権の問題に係るものであり、外国裁判所から判決が当然国内において効力を持つわけではありません。しかし、多くの国は、国際民事事件の迅速かつ統一した解決のために一定の要件を満たす外国裁判の場合、国内判決と同じ効力を承認し、執行も許容しています。

韓国の場合、その要件というは、①外国裁判所から確定された裁判であること、②外国裁判所に国際裁判管轄が認められること、③被告への送達が適法に行われたこと、④判決内容が韓国の善良な風俗と社会秩序に反しないこと、⑤韓国とその外国の間に相互保証があることです。

追加て読む:日本裁判所による判決の韓国における効力および執行手続について

韓国と日本の裁判所は昔から両国の判決を幅広く承認してきており、承認要件に関する裁判所の実務にも共通性が少なくありません。その一つの例が、懲罰的損害賠償を命じた外国判決は承認不可であるとの共通的立場であります。

ところが最近、韓国の最高裁判所は、外国裁判所の懲罰的損害賠償判決の承認を制限的に許容する判決を下し、これによって今後日本と韓国の法律実務に大きな相違が生じると見られます。

外国裁判所の懲罰的損害賠償判決に対する従来の立場

懲罰的損害賠償とは、加害者に対する制裁や将来における同様の行為の抑止を目的のために実際に生じた損害以上の賠償を命ずることをいいます。

これまでの韓国裁判所の立場は、韓国の損害賠償制度の根本理念は、被害者が実際に被った損害を補てんして、損害が発生する前の状態に回復させることなので、実際に生じた損害の賠償に加えて見せしめと制裁のための賠償を命じることは損害賠償制度の基本理念と社会秩序に反すると見ました。日本の裁判所も懲罰的損害賠償判決は、公の秩序に反するものと見て承認を拒否してきました。

2022年の韓国の最高裁判決

ところが、韓国の最高裁は、2022年3月11日、米国ハアイ州の裁判所が命じた懲罰的損害賠償判決を韓国で承認および執行することは、韓国の善良な風俗や社会秩序に反しないと判決しました。

韓国の最高裁は、韓国の場合、2011年から特定分野における懲罰的損害賠償を許容する立法がなされてきたことを指摘しながら、損害補てんの範囲を超える損害賠償を命ずる外国損害賠償判決の原因となった行為が少なくとも韓国において損害補てんの範囲を超過する損害賠償が許容される個別法律の規律領域に属する場合には、その外国判決を承認するとしてもそれが損害賠償関連法律の基本秩序に顕著に反して許容されない程度とは見難いと判示しました。

事案は被告が原告の独占的食料品輸入·販売契約を妨害し、不公正な競争方法を使ったという理由で米国ハワイ州法により原告が被った損害の3倍の賠償を命ずるハワイ州判決に対し、原告が韓国の裁判所に承認·執行判決を求めた事件でした。

韓国の最高裁は、ハワイ州判決が損害賠償の対象とした行為は、韓国の「独占規制及び公正取引に関する法律」の規律対象に該当し、「独占規制及び公正取引に関する法律」でも実際の損害額の3倍内で損害賠償を許容する法条項を置いているので、実際の損害額の3倍に該当する損害賠償を命じたハワイ州判決の承認は認められると判決しました。

比較:2021年の日本の最高裁判決

一方、日本でも令和3年に同様の事例がありました。米国カリフォルニア州所在の飲食店が、企業秘密を取得されたなどとして日本の不動産会社を提訴し、同州の裁判所が懲罰的損害賠償を命じたケースで、日本の最高裁は、令和3年5月25日、カリフォルニア州裁判所の懲罰的損害賠償判決は、日本の公の秩序に反するものであるので、日本内での執行は不可能だと判決しました。韓国の裁判所と日本の裁判所の立場の違いをよく示しています。

韓国の懲罰的損害賠償制度

ちなみに、韓国は2011年に初めて「下請取引の公正化に関する法律」において親事業者の不当な行為により発生した損害の賠償に関して、実際の損害の3倍を限度とし、損害の補てんの範囲を超える損害賠償制度を導入しました。続いて、「独占規制及び公正取引に関する法律」においても、事業者の不当な共同行為等に対して実際の損害の3倍を限度として損害補てんの範囲を超える損害賠償規定を導入し、引き続き個人情報、勤労関係、知的財産権、不正競争行為及び営業秘密保護、消費者保護等の分野における個別法律の改正により、一定の行為類型について3倍から5倍を限度として損害補てんの範囲を超える損害賠償を許容する規定を導入しています。

示唆点

今回の韓国の最高裁判決により、韓国の裁判所からの懲罰的損害賠償判決が日本において承認と執行不可である従来の実務は変わりません。そして日本は現在、懲罰的損害賠償制度が存在していないので、日本の裁判所からの懲罰的損害賠償判決の承認と執行が韓国で問題になることも当分はなさそうです。

ただし、迂回的に、例えば、日本企業が米国の裁判所から韓国企業を相手に懲罰的損害賠償判決を受けた場合、以前のように懲罰的損害賠償という理由だけで承認と執行が拒否されることはなくなったと言えます。当該紛争が韓国において懲罰的損害賠償制度が施行されている法律領域に属すれば、他の要件を満たすことを前提に、韓国でも承認と執行が可能になります。

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