韓国弁護士が解説:韓国企業や個人に対する債権回収の戦略と手順

日本企業や日本人の方から最もよく聞かれる質問の一つは、韓国内で金銭債権を回収する方法です。ここでいう金銭債権とは、さまざまです。貸与金、物品代金売掛金、投資金、配当金、ロイヤリティー、利用料、報酬、賃金、事故による損害賠償金はもちろん扶養料などの家族関係の債権、日本裁判所からの判決金も含まれます。

これらの債権は様々な背景を持ち、企業間の取引や個人間の金銭的な関係から生じることが多いです。そのため、債権回収の方法も多岐に渡り、法律的な手続きや交渉のテクニックが重要となります。本稿では、その債権推尋の方法と手順はせちめい

本稿では、長年にわたり韓国における債権回収を数多く取り扱ってきた韓国弁護士としても経験に基づき、債権回収の方法と手順をわかりやすく解説します。

<目 次>

1. 信用調査を行う
2. 韓国弁護士の名義で内容証明郵便を送る
3. 債務者の財産を仮差押えする
4. 債務者を相手で法院に支給命令を申し込む
5. 裁判に勝訴したにもかかわらず、債務者が返済に応じない場合は?
(1) 債務者の財産に対し強制執行を行う
(2) 財産開示申立を行う
(3) 債務不履行者名簿への登載申立を行う
6. 債務者に対し刑事告訴を行う
7. 債務者に対し破産また再生申請を行う
8. もし会社にはお金がなっかたら?
おわりに

1. 信用調査を行う

債権回収において最も重要なのは、まず債務者に弁済能力があるかを正確に把握することです。そのためには、債務者の財政状況を詳細に確認し、各資産の所在や状態を徹底的に調査する必要があります。

韓国の弁護士は債務者の情報を巧みに活用し、資産状況を把握することが可能です。

さらに、韓国企業や個人事業主への「商事債権(商行為によって生じた債権のこと)」を保有する日本企業や日本人であれば、韓国の信用情報会社を通じて債務者の信用情報照会をするのができます。これらの情報には、債務者の財務情報や金融資産、不動産の所有状況が含まれており、弁済能力の評価に役立ちます。一方、商事債権ではなく一般民事債権の場合には、債務者の支払義務を証明するために判決文が必要となります。

2. 韓国弁護士の名義で内容証明郵便を送る

韓国弁護士名義の内容証明郵便は、債務者に対して心理的な圧力をかける有効な手段です。特に、債務者が自分の債務を認めながらも、債権者が外国にいることを理由に債務の弁済を遅らせている場合に効果的です。このような場合、内容証明郵便は、債務者が債務を履行しない場合に将来的に法的措置が取られる可能性があることを警告する意味を持ち、債務者に状況の深刻さを認識させることができます。

また、内容証明郵便は、今後の裁判において重要な証拠資料となることがあります。債権者が債務の弁済を求めたこと、およびそれに関する書面上の証拠が存在することを示すことができるため、将来の法的手続きに備えてこのような証拠資料を確保しておくが有意味です。

内容証明郵便は、強制的な効力はないものです。したがって相手方が応じない場合は、次の方法に進みます。これには、裁判所への訴訟提起や、債務者との交渉を通じた解決策の模索が含まれます。このプロセスでは、法的手段や交渉を円滑に進めるための準備が重要であり、内容証明郵便がその出発点となります。もちろん、債務者が交渉に応じる見込みがほとんどない場合には、内容証明郵便の送付を省略し、速やかに法的措置に移行する方が適切です。

3. 債務者の財産を仮差押えする

もし債務者の財産が把握できる場合、内容証明郵便を送る前に、少なくとも訴訟を起こす前に仮差押えをするのがお勧めです。仮差押えの実施は、日本での手続きとほぼ同様に機能し、判決が確定するまでの間、債務者による財産の隠匿や浪費を防ぐだけでなく、訴訟前の交渉においても有利な立場を確保することができます。

仮差押えの対象としては、債務者が所有する不動産や預金、取引先に対する債権などが挙げられ、比較的低コストで実行可能です。特に、債務者の資産保全や迅速な債権回収を目指す場合には、仮差押えが有効な手段となります。

ただし、債務者の預金を仮差押えする場合は、相手方に対する請求金額の20%を裁判所に現金で供託しなければなりません。

供託した現金は、後に裁判で勝訴すれば全額返金されます。裁判で敗訴すれば、当然の返金ではなく、被告(債務者)が損害賠償請求の訴訟を提起しない場合は全額の返金が保証されますが、訴訟を提起した場合は裁判で決められた損害賠償金を除いた残りのみが返金されます。損害額は、被告が立証する必要がありますが、仮差押えされた金額に対する法定利息程度が多いです。もちろん裁判での勝訴の割合も考慮して決めます。

4. 債務者を相手で法院に支給命令を申し込む

支給命令は、正式裁判よりも簡単かつ迅速に裁判所からの確定判決を受けることができる重要な手段です。この支給命令制度では、裁判所が債権者の提出書類のみをもとに支給命令を発令します。債務者が裁判所からの支給命令書を受け取ってから2週間以内に異議を申し立てない場合、その支給命令は確定判決と同じ効力を持ちます。

もし債務者が支給命令に異議を申し立てた場合、直ちに債権者と債務者の間で裁判手続きが開始されます。韓国の裁判手続きは日本のものと非常に似ており、3審制を採用しています。一般的に、1審判決が出るまでには6ヶ月から1年程度かかるため、支給命令の申請前に債務者の韓国内の財産を確認し、仮差押えを行っておくことが推奨されます。

さらに、支給命令を含む裁判で勝訴した場合、債権者は一定の弁護士費用を債務者に請求することができます。

もっと読む:訴訟費用の敗訴者負担と弁護士費用

5. 裁判に勝訴したにもかかわらず、債務者が返済に応じない場合は?

(1) 債務者の財産に対し強制執行を行う

債務者に対する支給命令や訴訟で勝訴し判決が確定したにもかかわらず、債務者が返済しない場合、債権者は債務者の財産に対して強制執行を行うことができます。強制執行の手続きには、債務者が所有する不動産、預金、車両、給与など、差し押さえが可能な財産を対象に行われ、法的に回収手続きを進めることができます。これにより、債務者が自主的に返済しない場合でも、債権者は裁判所の力を借りて債権回収を実現できます。

もっと読む:【韓国法実務】債権執行における国際的執行管轄の問題

(2) 財産開示申立を行う

債務者の韓国内の財産が不明であったり、強制執行によって差し押さえた財産だけでは債権の全額回収が難しい場合もあります。この場合、日本と同様に、裁判所に財産開示申立を行うことが可能です。

財産開示申立を行うと、裁判所は債務者に対して財産目録の提出を命じます。もし債務者が財産目録の提出を拒否したり、提出された財産目録に記載された財産が債権の全額を回収するに足りない場合、債権者は、債務者の財産や信用に関する情報を有する公共機関や金融機関、その他の団体に対して債務者の財産情報(不動産、知的財産権、自動車、金融資産など)を照会することができます。これにより、隠匿されている可能性のある財産や追加の回収対象を特定し、債権の回収をさらに進めることができます。

(3) 債務不履行者名簿への登載申立を行う

債務者が判決確定日から6ヶ月以内に債務を返済しない場合、債権者は債務不履行者名簿への登載を申立てることが可能です。債務不履行者名簿への登載は、債務を履行しない不誠実な債務者の個人情報を公開することで、名誉や信用に損害を与え、間接的に債務の履行を促す効果を狙っています。

裁判所が債務不履行者名簿への登録を決定すると、その事実は債務者の居住地の市区町村長だけでなく、金融機関にも通知されます。これにより、債務者は債務を返済するまで信用不良者として扱われ、金融取引が事実上停止され、クレジットカードの使用も停止されるため、債務履行に向けた圧力がかかります。

6. 債務者に対し刑事告訴を行う

韓国における債権回収の特徴のひとつは、日本とは異なり刑事告訴が広く活用されている点です。代表的なケースが詐欺罪への告訴です。

民事上の取引であっても、取引開始やその継続の際、重要な事項を虚偽で告知したり黙秘した場合には、詐欺罪が成立する可能性があります。例えば、返済能力や意思がないのに借金をしたり、実際には事業性が低かったり、違法性のある事業にもかかわらず、それを隠して投資を募った場合などが該当します。このような場合、債権者は債務者を詐欺罪で刑事告訴することが可能です。

韓国では、日本と違って、告訴状が提出されれば一応捜査は開始されます。まずは告訴人(債権者)の陳述を聴取し、その後、被告訴人(債務者)を召喚して事情を調査します。この過程で捜査が進行する中、債務者が捜査に負担を感じて被害金を返済し、和解が成立するケースが多く見られます。刑事告訴は、債務者に対して強い心理的・法的な圧力をかけ、迅速な債権回収を実現する手段として効果的です。

7. 債務者に対し破産また再生申請を行う

韓国の債務者が全ての債務を返済できない支払不能状態、または負債が資産を超える債務超過状態にあることが確認された場合、韓国の裁判所に対して債務者の破産を申し立てることが可能です。

裁判所が破産宣告を行うと、裁判所が任命した破産管財人が債務者の全資産を換価し、債権者から申告された債権の存在、金額、優先順位などを調査し、法に基づいた公平な分配を行います。

韓国における債務者の破産は、韓国における債務者財産に対し個別に債権回収を行うことが難しい日本の債権者にとって、裁判所が債務者の全体的な資産を換価し、債権者間で平等に分配してくれるとの点で有利なことになります。さらに、韓国の破産手続において配当されなかった部分は、貸倒損失として損金経理を行い、損金の額に算入されるメリットもあります。

もっと読む:暗号資産保管プラットフォーム、ハル・インベストの運営会社に破産宣告:韓国法での破産手続きと日本債権者の破産債権申告について

一方で、債務者の破産よりも、事業再建や営業の継続による債務返済が債権者にとって有利であると判断される場合には、裁判所に法人再生を申請することも可能です。韓国の会社再生(回生)手続きは、日本の会社更生法と類似しており、再建計画の策定と遂行を通じて事業を継続しながら債務を返済することを目的としています。この場合、裁判所が選任した管財人が再建計画の管理を行い、債権者は再建計画に従って債権の返済を受けることができます。

8. もし会社にはお金がなっかたら?

韓国も日本と同様に、法人と取締役は、別の法人格です。そのため、韓国企業に対する債権を直接その代表取締役や役員に対して行使することは基本的にはできません。

(1) 取締役や監査役の損害賠償責任

ただし、ここには一つの例外があります。韓国の会社法では、取締役や監査役が故意または重大な過失によりその任務を怠った場合には、第3者に対して連帯して損害賠償責任を負うことが規定されています。

この規定に基づき、韓国の裁判所は、例えば、会社が債務超過の状況にあるにもかかわらず、返済が困難な借り入れや無謀な取引を行った場合、取引相手は取引相手は該当会社の取締役と監事役に損害賠償の請求が可能だと判決した例が多く存在します。これにより、会社の財政が悪化している場合でも、取締役や監査役に対して一定の責任を追及する道が開かれます。

(2) 法人格否認

もう一つの例外として、法人格否認の法理があります。法人格否認の法理とは、会社の株主が会社の法人格を悪用し、不法または不当な方法で利益を得ようとした場合に、その会社を独立した法人格を有する別個の存在として認めないことを指します。この場合、裁判所は会社と株主の区別を否定し、会社の負債に対して株主が直接責任を負うよう命じることができます。

韓国の判例によれば、法人格否認の法理が適用されるには、主要株主や経営陣が会社の法人格を利用して私的な利益を追求したり、負債の回避を目的とする意図が明確に示される必要があります。例えば、会社の資金を個人的な用途に流用したり、会社の資産を意図的に移転させて債権者の権利を侵害した場合には、法人格否認が適用されることがあります。

法人格否認の法理が適用されると、債権者は会社の主要株主や実際の経営者に対して直接債権を回収する権利を有することができ、これにより会社が負債を回避しようとする試みが法的に阻止されます。

もっと読む:韓国における法人格否認法理の逆適用

おわりに

債務者が韓国にいるからといって、韓国の法律をよく理解できないという理由で債権回収を諦める必要はありません。日本国内での債権回収と同様に、韓国の弁護士を現地の法律代理人として選任し、迅速に状況を分析した上で債権回収手続きを進めることが望ましいです。

当事務所は、15年以上にわたり、日本の企業および個人を代理して韓国での債権回収業務を遂行してまいりました。上記の内容や韓国内での債権回収に関して相談をご希望の方は、こちらのメールまたは上段の「法律相談」コーナーよりお気軽にご連絡ください。

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本メモランダムは、一般的な情報提供のみを目的としたサマリーであり、本件に関する完全な分析ではなく、またリーガル・アドバイスとして依拠されるべきものではありません。

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