韓国弁護士が語る「韓国企業との国際ライセンス契約の実務」

ライセンス契約は、韓国企業とビジネス取引をする日本企業にとって不可欠な要素です。両国の企業が協力し、製品や技術を共有する際には、ライセンス契約がビジネスの成功に不可欠な役割を果たします。しかし、日本と韓国の文化、法律、およびビジネス慣習の違いを考慮に入れずに契約を進めることは、重大な問題を引き起こす可能性があります。

当事務所は、日本企業と韓国企業間の国際ライセンス契約に関するアドバイスを常いに提供しています。そこで、今回は、日本企業と韓国企業の間でのライセンス契約に関する理解を深め、成功裏に取引を進めるためのポイントを探ります。法的なポイントはもちろん文化的な違いにも焦点を当て、両国の企業が円滑かつ効果的な協力を築くためのステップについて説明します。

韓国のライセンス契約規制

韓国では、特に韓国国際ライセンス契約を規制対象とする法律は存在しませんが、韓国の競争法、すなわち「独占規制及び公正取引に関する法律」が国際ライセンス契約を規制する上で重要な役割を果たしています。

韓国の競争法は、企業間の不正な取引や競争を防ぐために設けられた法律であり、国際ライセンス契約で許可される行為と許可されない行為に関する一定の指針を提供しています。この法律は、市場競争の健全性を保つために重要な役割を果たしており、契約当事者が公正な条件のもとで取引を行うことを確保するための基準を提供しています。

したがって、日本の企業が韓国側と国際ライセンス契約を検討する際には、韓国の競争法法に基づく規制や指針を遵守することが肝要です。

排他的・非排他的ライセンス契約

韓国ライセンス契約を検討する際、日本企業は排他的ライセンス契約と非排他的ライセンス契約のどちらかを選ぶことができます。これら2つのアプローチの違いを理解することは、ビジネスに適した正しい選択をするために必要です。

排他的ライセンス契約

排他的ライセンス契約は、韓国(または日本)のライセンシーに対し、特定の分野または地域のみでライセンスされた技術や知的財産の排他的使用権を付与することです。これは、ライセンサーが同じ技術や知的財産を同じ分野または地域の他のライセンシーに提供できないことを意味します。

排他的ライセンスは、市場内の競争を制限することによってライセンシーに競争上の優位性を提供するため、ライセンシーに有利な契約条件であると理解されています。しかしこの点が、他の契約条件と合わせて、場合によっては、前述の韓国競争法に違反するケースもあり得るので、その点、事前に検討が必要です。

非排他的ライセンス契約

非排他的ライセンス契約は、ライセンサーが、同じ技術や知的財産を他のライセンシーにも提供する権利を保持します。このアプローチは、ライセンサーにとって有利であり、技術や知的財産に対する広範な市場を提供し、収益の可能性を高めることができます。

ただし、非排他的ライセンス契約は、他のライセンシーからの競争に直面する可能性があるため、ライセンシーが技術や知的財産への投資を行う意欲を削減する可能性があります。

排他的ライセンス契約と非排他的ライセンス契約の選択肢の間で日本企業が選択する際には、各アプローチの潜在的な利点と欠点を考慮し、それらを自社のビジネス目標に合わせて調整する必要があります。たとえば、日本企業の目標が迅速かつ効率的に韓国市場に参入することである場合、排他的契約が最善の選択肢となるかもしれません。一方、収益の可能性を最大限に引き出し、市場を拡大することを目指す場合は、非排他的な契約がより適しているかもしれません。

韓国ライセンス契約における主要な条項

韓国企業との国際ライセンス契約を締結する際には、次の条項が含まれることが一般的です。

ライセンスの範囲と利用目的

ライセンスの範囲は、ライセンスの対象となる特定の製品、技術、権利、または知識の範囲を指します。ライセンスの対象物は細かい部分まで具体的に記載されることが重要です。

利用目的は、ライセンサーがライセンシーに対して許可する活動や目的を指します。例えば、特定の製品を特定の市場で販売するために使用することや、技術を研究・開発目的で利用することなどが利用目的になります。利用目的を具体的に示すことによって、ライセンサーは提供された知識や技術がどのように利用されるかを把握し、それに合致する活動が行われることを確認できます。

韓国企業との国際ライセンス契約では、ライセンスの範囲と利用目的に関する明確な取り決めが、双方の信頼関係を築く上で重要です。契約締結前に、双方が納得のいく形でこれらの条項を詳細に検討し合うことが推奨されます。

地理的制約

地理的制約とは、ライセンシーがライセンスされた製品やサービスを販売または配布できる地理的範囲を制限することを指します。これらの制約は、ライセンサーが自社の市場シェアを保護するために課される場合や、第三者との契約上の義務を遵守するために課される場合があります。

しかし、地理的制約が競争を制限する効果を持つ場合、韓国の競争法に違反する可能性があります。韓国の競争法は、特定の市場で競争を実質的に制限する合意や協調行動を禁止しています。これには市場を分割する合意、価格を設定する合意、生産または供給を制限する合意も含まれます。

ただ、韓国の競争法において地理的制約が違反しているかどうかを判断する際には、関与する当事者の市場シェア、制約の程度と期間、関連市場の競争状況などの色んな要因を考慮することになります。したがって、ライセンサーはライセンス契約で地理的制約を課す際には注意が必要であり、競争制限効果を生じないように配慮しなければなりません。

報酬と支払い条件

ライセンス契約には、ライセンス使用に対する報酬や支払い条件が当然含まれます。これらの条項は、ライセンサーとライセンシーの間で経済的利益や期待を明確に定義し、将来的な紛争を予防する役割を果たします。

一般的な報酬の形態には、ロイヤリティ(売上の一定割合)、ライセンス料(固定金額)、マイルストーンベースの支払い(特定の進捗に応じた支払い)などがあります。報酬の額や計算方法は契約で明確に示されるべきです。

支払い条件は、報酬の支払いがどのようなタイミングで行われるか、どのような方法で支払われるかを規定します。支払いの頻度(月次、四半期、年次など)、支払いの締切日、支払い方法(銀行振込など)、通貨などが明示されます。

韓国企業との国際ライセンス契約において、報酬と支払い条件に関する条項は、長期的なビジネス関係の基盤を築く上で欠かせない要素です。契約交渉の際には、双方の利益を考慮し、公平な合意を形成することが重要です。

最低ロイヤリティ条項

報酬と支払い条件の一つとして最低ロイヤリティ条項があります。これは、特に排他的ライセンス契約にてよくみられます。これにより、ライセンシーは実際の売上に関係なく最低額のロイヤリティを受け取る権利を持つことになります。最低ロイヤリティ条項は、ライセンサーがライセンシーに対して最低限の収益を確保するために使用されます。これにより、ライセンサーはライセンス料の下限を設定し、ビジネスの持続可能性を確保します。

ただ、韓国の競争法の観点からは、最低ロイヤリティ条項は、不当に競争を制限する効果を持つ場合違法とされるケースもあるため、注意が必要です。

これらのリスクを軽減するために、ライセンサーは最低ロイヤリティ条項をライセンス契約に含める際に、競争法の影響を慎重に考慮すべきです。また、最低ロイヤリティ条項の対償としてライセンシーへのサポートや投資の提供など、契約の構造を考え直す方法も検討すべきです。

もちろん、最低ロイヤリティ条項の合法性は、前述のように具体的な事案と状況によって異なることがあります。関連市場の状況や当事者の交渉力など様々な要素によって合法性の判断が変わる可能性があります。したがって、ライセンサーは最低ロイヤリティ条項をライセンス契約に含める前に法的助言を求め、詳細なデューデリジェンスを実施する必要があります。

権利の所有と保護条項

この条項は、ライセンシーが提供する製品や技術に関する知的財産権の所有権がライセンサーにあることを明記し、それに対するライセンシーの保護装置を取り決めることです。これには、権利侵害に対する法的な行動、機密情報の取り扱い、機密保持契約の締結、および他者に対するサブライセンスの制限などが含まれます。

改良

改良条項は、ライセンシーがライセンスされた技術や知的財産に改良や修正を加えること関する取り決めです。技術ライセンス契約や製品供給契約では、改良によって、製品やサービスの競争力が向上し、市場でのポジションが強化される可能性があります。したがって、改良に関する契約条件は、ビジネス戦略の一部として重要です。契約の交渉および取り決めにおいて、双方の当事者が公平な合意に達することが重要です。

一方、改良条項が、ライセンシーが改良した技術や製品をライセンサーの製品と競争することを禁止する場合、韓国の競争法に違反する可能性があります。前述のように、韓国の競争法は、競争を制限する制約的な合意が禁止しているからです。

実際のケースとして、韓国の公正取引委員会(KFTC)は、2016年、アメリカのクアルコムが自社の技術に対する改良条項を使用して、ライセンシーが自社の技術を開発して競争することを抑制していたと判断し、クアルコムに対し韓国競争法違反の理由で8億5400万ドルの罰金を課したことがあります。

契約の期間と終了

契約の期間と終了条項は、ライセンス契約の期間とどの条件でどちらの当事者が契約を終了できるかを決めます。通常、契約期間は一定の期間(例:1年、3年、5年など)として指定されますが、特定の事情の発生までを契約期間とする場合もあります。

一般的な終了条件には、合意に基づく終了と違反に基づく終了があります。後者の場合は、違反内容や通知期間を明確に決めとくのが重要です。

契約終了後の権利取り決めもこの条項に含まれるべきです。これは、ライセンシーが契約終了後も特定の権利を維持できるかどうかを定義します。例えば、既に生産中の製品を販売し続ける権利などが含まれます。

保証と免責

保証と免責条項は、国際ライセンス契約において重要な条項です。これらの条項は、ライセンサーとライセンシーがライセンスに関連する製品や技術についてどのような責任を負うか、またどのようなリスクを共有するかを明示します。

まずライセンサーは、提供する製品や技術が特定の品質基準を満たすことを保証します。これは、ライセンシーが提供されたものに関して特定の品質水準を期待できることを意味します。保証には、特定の仕様や性能基準に適合することに関する規定が含まれることが一般的です。

加えて、ライセンサーは、提供された知的財産権が有効であり、他者からの侵害クレームに対して保護されることを保証することが一般的です。これにより、ライセンシーは提供された権利を利用する際の法的リスクを最小限に抑えることができます。

一方、ライセンサーは、特定の範囲で、自分の責任を制限する免責事項を設けることも一般的です。これは、製品の誤用、不適切な取り扱い、または外部要因による損害について、ライセンサーが責任を負わないことを意味します。

韓国企業との国際ライセンス契約において、保証と免責条件は、契約の公平性とリスク管理の観点から重要です。契約交渉の際には、双方が公平な合意に達するよう努力することが不可欠です。

機密保持と非開示条項

この条項は、ライセンス契約双方が交換する機密情報の取り扱い方法や、情報漏洩時の責任を決めます。

まず、この条項では、どの情報が機密情報と見なされるかを明確に定義する必要があります。これには、特許情報、製品設計、営業戦略、マーケティングプラン、技術情報などが含まれます。あとは、機密情報の取り扱い、非開示の義務、使用制限、機密情報の返却または破棄、違反に対する制裁に対し規定することになります。

機密保持と非開示条項は、知的財産権やビジネスプロセスに関連する機密情報を適切に保護し、ライセンス提供者とライセンス受取者の信頼関係を構築するために不可欠です。このような条項の存在により、知識の流出や不正競争行為からのリスクが最小限に抑えられ、韓国企業とのビジネスパートナーシップが円滑に進行できます。

適用法と管轄権

適用法(準拠法)条項は、国際的なライセンス契約において、契約に関連する法的事項をどの国の法律に従って解釈・適用するかを決める条項です。管轄権条項は、契約に関する紛争が発生した場合、どの国の裁判所または仲裁裁判所がその紛争を審理するかを決めることです。

適用法と管轄権の取り決めは、契約交渉の際に慎重に検討され、契約当事者が紛争の発生時にスムーズに対処できるようにするために欠かせない要素です。

日本のライセンサーの観点からは、適用法として日本法を指定し、紛争が発生した際にも日本の裁判所を排他的な管轄権とすることが適切です。これにより、紛争のリスクを最小限に抑え、紛争が迅速かつ費用効果的に解決されることが確保されます。ただし、韓国のライセンシーが日本においてビジネスや資産を持っていない場合は、韓国の裁判所を管轄権とする方が適切かも知りません。なぜなら、日本裁判所から判決を得たとしても日本判決を韓国で執行するに再び時間と費用がかかる懸念があるからです。

文化的な違い

文化的な違いは、日本企業と韓国企業間でのビジネス契約において大きな役割を果たします。例えば、コミュニケーションのスタイルにおいて、日本では控えめで間接的なコミュニケーションが好まれます。一方、韓国ではより直接的で積極的なコミュニケーションが一般的です。この違いは、契約交渉や問題解決において混乱を招く可能性があるため、注意が必要です。双方が相手の文化を尊重し、適切なコミュニケーションスタイルを選択することが成功の鍵です。また、文化的な信頼関係を築くために、お互いのビジネス文化や習慣に理解を示すことも重要です。文化的な違いを理解し、認識することは、円滑な協力に不可欠です。

最後に、日本と韓国は、言語や法律が類似点が多いのが事実ですが、国境を越えた契約の複雑さについては慎重であるべきです。韓国語と日本語は、同じく漢字を使っていますが、微妙なニュアンス、形式、文脈の違いが交渉や契約書の作成の際に誤解を招く可能性があります。同様に、両国は、歴史的な背景と繋がりにより法的枠組みが似ているように見えるかもしれませんが、韓国と日本は、過去30年間にわたり、それぞれの法制度を独自に発展させてきました。その結果、現在、契約法、知的財産規制、競争法、紛争解決メカニズムに少なくない違いがあり、細心の注意が必要です。したがって、ビジネス取引においては徹底的な理解と適切な法的アドバイスが欠かせません。

まとめ

以上、韓国市場への進出を考えている日本企業が知っておく必要のある国際ライセンス契約について説明しました。これは、日韓企業の間のビジネス関係を明確にし、リスクを管理し、紛争を防ぐために欠かせない要素です。国際ライセンス契約を締結する際には、法的アドバイザーと協力し、慎重に交渉と契約条件の取り決めを行うことが成功への鍵であると思われます。

当法律事務所は、15年以上、日本の企業に韓国ライセンス契約のレビューとアドバイスの業務を遂行してきました。上記の内容や韓国法務に関する情報を願う方は、こちらのメールまたは上段の「法律相談」コーナーでご連絡ください。

本コラムは、一般的な情報提供のみを目的としたサマリーであり、本件に関する完全な分析ではなく、またリーガル・アドバイスとして依拠されるべきものではありません。

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